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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                         第27回『花柳幻舟獄中記Ⅱ』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、前回ご紹介した『花柳幻舟獄中記』の続編にあたる、1985年の『月曜ワイド劇場』作品『花柳幻舟獄中記Ⅱ』をご紹介します。前作の放送は1984年5月でしたが、それから約1年を経て、今回はなんと4月1日という、実質的な「期首特番」扱いとなりました。1984年4月の第1週&第2週には、テレビ朝日開局25周年記念番組として『花も嵐も踏み越えて 女優田中絹代の生涯』前・後編(高橋かおり、秋吉久美子、乙羽信子がリレー形式で田中絹代を演じたドラマで、2週とも3時間枠が用意された)が放送されていたことを考えれば、いかに本作が局側の期待を受けていたか、容易に想像できるでしょう。構成の中島信昭さん、脚本の掛札昌裕さんは前作から続投し、監督のみ、野田幸男さんから森崎東さんに交代しました。森崎監督は松竹出身。後にフリーとなり、1980年代には『時代屋の女房』(83年/主演:渡瀬恒彦、夏目雅子)、『塀の中の懲りない面々』(87年/主演:藤竜也、柳葉敏郎)などを手がけています。2013年の『ペコロスの母に会いに行く』が最後の監督作となりましたが、この作品はキネマ旬報ベスト・テンで日本映画1位に選ばれるなど、高い評価を得ました。2020年7月、惜しくも逝去されています。

 

さて、物語ですが、前作をご覧になった方ならばお分かりのように、『獄中記』にあたる部分は、すでに映像化されていました。そのため、パートⅡとなる今回の副題は『女子刑務所 花の同窓会』。冒頭こそ、前作のラストをなぞる形で(ただし、映像は流用ではなく新撮されています)「仮出獄」までの数日間がダイジェスト的に描かれますが、そこからラストまでは「出所後」のお話となりました。

傷害罪で服役していた舞踊家・花柳幻舟こと川井洋子(花柳幻舟)は、刑期満了前に栃原刑務所(実際は「栃木刑務所」)を仮出獄することになりました。さまざまな思い出が脳裏をよぎりつつも、逞しい幻舟は、この“貴重な経験”を今後の活動に存分に活かしていくことしか考えていませんでした。早速、「出所記念公演」で派手な復帰を果たした幻舟は、そこで自分よりも先に出所していた中野佐代子(萩尾みどり)と再会します。幻舟、佐代子、そして菅野セツ子(奈美悦子)が集まったのは、やはり栃原刑務所での服役経験を持つ女将(園佳也子)が経営する焼き鳥屋「栃原」。しかし、懲りずにまた新たな悪事に手を染めようとしていた者もいて……。

 

全編の大半が「刑務所内」の話だった前作は、やむなく罪を犯した者たちにとって、外の世界よりも、むしろ閉じられた世界である“獄中”での生活のほうが幸せなのかもしれない、という物悲しさがテーマとなっていました。そこから続く物語である本作は、出所後がメインということで、導入部は希望を感じさせるものの、むしろ前作よりも「観ていて辛い」展開が待っています。これは意外というより、前作から一貫したテーマを訴えている本作では「順当」な流れだといえるでしょう。後半、幻舟さんは「前科者」に対する人々の態度の中から、“建前”に隠された“本音”を次々と感じ取っていきます。森崎監督は、こうした人々の様子を敢えて、ちょっと戯画的に演出することにより、おそらく幻舟さんが現実でも直面したであろう「違和感」を際立たせました。ここまで「前科者」サイドに感情移入させてしまう作りは確信的で、さすがに現在のテレビ界では本作のような企画は成立しにくいでしょう(シンプルに考えても、わずか数年前の事件の当事者が自ら「本人」役で主演し、しかも犯罪シーンまで再現するというドラマなど、昨今のように何から何までクレームの対象となるご時世では、そもそもスポンサーがつきづらいはずです)。ただ、それゆえに、本作の存在は極めて貴重なものとなっています。

 

少々「惜しいな」と思ってしまうのは、せっかくの続編にもかかわらず、前作とのつながりが薄い点です。とはいえ、これは今回のように4月、5月と連続して放送されるから感じることであり、本放送当時は、前作の内容を細かく覚えている視聴者など少なかったでしょうから、製作サイドも、そこまでこだわっていなかったのかもしれません。前作から、役柄も含めて続投しているのは幻舟さんの父親役・和崎俊哉さんや、ある理由から出所を極度に拒む赤城ヤエ役の白川和子さん程度。前作では目立っていた刑務所の保安課長役・上月左知子さんは展開上、本作ではほとんど出番がなく、また前作と同じく女囚役ながら、なぜか役名は異なる立石凉子さんのようなパターンもありました。

一方で、期首特番扱いということもあってか、助演陣は全体としてはより豪華になっています。弁当屋で真面目に働き始めた佐代子を見初める、食品会社の専務役には河原崎長一郎さん。「事件」前まで幻舟さんの考え方を支持していた文芸評論家役に仲谷昇さん。そして幻舟さんの元・恋人役には、当時『特捜最前線』にレギュラー出演中だった誠直也さんが扮しています。これに加え、幻舟さんと交流のあった意外な「文化人」たちもカメオ出演。実名で登場し、しっかり「台詞」もありますので、ご注目ください。

 

それでは、また次回へ。5月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、1991年の『水曜グランドロマン』より『別れてのちの恋歌』(監督:井上昭/出演:大竹しのぶ、堤真一、田中邦衛、西田健ほか)、1982年の『火曜サスペンス劇場』より『死の断崖』(監督:工藤栄一/出演:松田優作、夏木マリ、竹田かほりほか)、1993年の『サスペンス・明日の13章』より『変身 もう一人の私』(監督:黒沢直輔/出演:伊藤かずえ、蟹江敬三ほか)、1988年の『京都サスペンス』より『マルゴォの杯』(監督:山下耕作/出演:岩下志麻、奈良岡朋子、石橋蓮司ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『花柳幻舟獄中記Ⅱ』

5月7日(金)13:00~15:00

5月22日(土)22:00~24:00

5月28日(金)17:00~19:00

 

『別れてのちの恋歌』

5月7日(金)17:00~19:00

5月21日(金)13:00~15:00

 

『死の断崖』

5月14日(金)13:00~15:00

5月21日(金)17:00~19:00

 

『変身 もう一人の私』

5月7日(金)19:00~20:00

5月14日(金)18:00~19:00

 

『マルゴォの杯』

5月14日(金)17:00~18:00

5月21日(金)19:00~20:00

2021年4月22日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                第26回『花柳幻舟獄中記』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1984年5月に放送された『月曜ワイド劇場』作品『花柳幻舟獄中記』をご紹介します。

『月曜ワイド劇場』は、1982年の秋から4年間にわたって、テレビ朝日・月曜夜9時~11時(最後の1年間のみ、夜8時~10時に移動)に編成されていた2時間ドラマ枠です。もともと、この枠では1981年の秋から1年間、『ゴールデンワイド劇場』という形で、主に邦画が放送されていましたが、1982年の春以降は新作の2時間ドラマが放送されることも多くなっていき、そのまま『月曜ワイド劇場』へと移行したのです。『ゴールデンワイド劇場』時代の2時間ドラマ作品の中には、山田太一さんが自らの原作を脚本化した名作『終りに見た街』などがありました。

さて『月曜ワイド劇場』ですが、この枠で放送される2時間ドラマは当初より「女のドラマ」などと銘打たれることが多く、打ち出し方として、同じテレビ朝日の2時間ドラマ枠として先行・定着していた『土曜ワイド劇場』との差別化を図った形跡が見られます。さらに細かく傾向を追っていくと、1983年の放送作品には『女囚犯歴簿』『悲しみの交通刑務所』『女子少年院』『女の哀しみの声がきこえる 女囚258号鉄格子の中で出産!』といったタイトルも。『花柳幻舟獄中記』のドラマ化は、こういった作品群が安定した支持を得たことから、実現したものだと考えられるでしょう。

このドラマの原作となったのは、舞踊家・花柳幻舟さんの自伝『夕焼けは哀しみ色』。ドラマ内でも生々しく“再現”されていますが、日本舞踊「花柳流」の名取となった幻舟さんは1960年代の後半から「家元制度」打倒を目指した活動を続け、1980年2月、当時の家元だった花柳壽輔(三代目)を斬りつける事件を起こし、傷害罪で服役することになりました。ドラマでは、同年10月末から翌年4月末までの、約半年間にわたる刑務所生活が、幻舟さんの視点から描かれていきます。ドラマ化にあたっては、東映の劇場作品でも共作歴のある掛札昌裕さんと中島信昭さんが組み、中島さんが構成、掛札さんが脚本としてクレジット。監督は、『不良番長』シリーズで知られる野田幸男さんが務めました。

 

舞踊家・花柳幻舟こと川井洋子(花柳幻舟)は、傷害罪で懲役8ヶ月という判決を受け、告訴することなく、形に服すことになりました。栃原刑務所(実際は「栃木刑務所」)で、幻舟の新たな生活が始まります。刑務所で出会ったのは、強烈な個性を持った女囚たち。幻舟=洋子は「有名人」ゆえ、当初は特に、彼女たちから目の敵にされ、精神的・肉体的に辛い日々を過ごすのでした……。

 

あらすじとしては、ひじょうにシンプルな本作。物語の大半は刑務所内が舞台で、幻舟さんと女囚たちの確執、交流が描かれました。女囚や、刑務所の関係者を演じる女優のみなさんは芸達者揃いで、演技合戦を観ているだけで、全く退屈しません。ネタバレになるかもしれませんが、後半の見どころは、女囚たちが幻舟さんの書いた台本で演じる芝居です。設定ではもちろん、女囚たちは演技の素人ですが、その女囚を演じているのが演技派の女優さんたち(ややこしい……)なので、この「劇中劇」は当然ながら、見応えのあるものになっているのです。

印象的な登場人物を挙げるとキリがありませんが、中でもやはり、中山綾子(殺人罪で無期懲役)役の中原早苗さん、佐々木京子(横領罪)役の宮下順子さん、赤城ヤエ役の白川和子さんといったあたりは出色。この他、出番は少なめですが、花村菊(詐欺罪)役の三條美紀さんもさすがの存在感を示しています。また、作品の性格上、男優陣は少ないのですが、幻舟さんの父親として「現在」と「過去(回想シーン)」に登場した和崎俊哉さんをはじめとして、京子の夫役・島田順司さん、ヤエの情夫役・中田博久さん(当時は『超電子バイオマン』にも悪役でレギュラー出演中でした)といった方々が、まさに「適役」を演じておられますので、どうぞご注目ください。

 

それでは、また次回へ。4月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第10回でご紹介した『百円硬貨』(監督:野田幸男/出演:いしだあゆみ、川地民夫ほか)、1981年の『傑作推理劇場』より『雪の螢』(監督:浦山桐郎/出演:大空眞弓、二宮さよ子、鹿沼えりほか)、1993年の『サスペンス・明日の13章』より『小さな王国』(監督:吉川一義/出演:岩下志麻、草刈正雄、石立鉄男ほか)、1988年の『乱歩賞作家サスペンス』より『罠の中の七面鳥』(監督:崔洋一/出演:浅野ゆう子、古尾谷雅人、相楽晴子、角野卓造ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『花柳幻舟獄中記』

4月2日(金)13:00~15:00

4月9日(金)20:00~21:50

4月30日(金)13:00~15:00

 

『百円硬貨』

4月9日(金)14:00~15:00

4月25日(日)13:00~14:00

 

『小さな王国』

4月1日(木)22:00~23:00

4月9日(金)13:00~14:00

 

『雪の螢』

4月1日(木)23:00~23:50

4月23日(金)13:00~14:00

 

『罠の中の七面鳥』

4月2日(金)16:00~17:00

4月23日(金)14:00~15:00

2021年3月22日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第25回『大東京四谷怪談』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1978年9月に放送された「土曜ワイド劇場」作品『大東京四谷怪談』をご紹介します。『土曜ワイド劇場』は、1978年7月から放送2年目に入りましたが、当時はまだ2時間枠ではなく、90分枠での放送でした。8月第3週、第4週には「夏の怪奇シリーズ」と題し、それぞれ『原色の蝶は見ていた 死の匂い』『怪奇!巨大蜘蛛の館』を放送。前者は西村寿行先生の原作で、脚本:山浦弘靖さん、監督:増村保造さんという『ザ・ガードマン』(65年)的な布陣。主演は由美かおるさんが務めました。後者は円谷プロのオリジナル作品で、キャストには小川知子さん、中山仁さんらが名を連ねています。

『大東京四谷怪談』は9月第1週の放送ということで、「夏の怪奇シリーズ」の冠こそ外れたものの、「怪奇シリーズ特選!」と題して放送されました。ちなみに、この時期、裏番組としては、夜9時台は民放各局ともにドラマを放送。日本テレビは水谷豊さん、大竹しのぶさんが主演の『オレの愛妻物語』、フジテレビは田宮二郎さん主演の『白い巨塔』、東京12チャンネル(現:テレビ東京)は里見浩太朗さん主演の『大江戸捜査網』、そしてTBSでは、丹波哲郎さん主演の『Gメン’75』が放送されていました。もし、この日にタイムスリップしたら「全部観たい!」という気持ちになりそうです。1978年なので、ビデオデッキすら、ほとんど普及していない時代ですが……。

さて、この『大東京四谷怪談』ですが、原作は「神津恭介」シリーズなどで知られる高木彬光先生。本作は「墨野隴人(すみの・ろうじん)」シリーズの第3作として1976年に発表された長編作品の映像化ですが、墨野隴人や村田和子といったキャラクターはそのまま登場するものの、原作からは、かなり大胆に改変されています。監督は、『プレイガール』(69~74年)などを経て、当時は『必殺』シリーズなどを手がけていた原田雄一さんが務めました(プロデューサーも『プレイガール』の大久保忠幸さんです)。

 

二宮柳子(富山真沙子)が何者かに暴行されたうえ、惨殺されるという事件が発生してから、1年が経とうとしていました。柳子は38歳でしたが、あまりの恐怖に直面したためか遺体は総白髪になっていました。

高田馬場で探偵事務所を営む村田和子(鰐淵晴子)は、亡くなった夫の親友でもあった清水(西沢利明)から、彼の親戚でもある柳子の殺人事件を調査してほしいという依頼を受けました。殺人事件を担当した経験のない和子は当初、頼れる存在である謎多き名探偵・墨野隴人(三橋達也)の協力を得ようと考えていましたが、あいにく墨野は仕事で海外へ出かけてしまっていました。そこで和子は清水とともに二宮家へ。ところが、まるで和子の到着を待っていたかのように、二宮家に関わる人々が謎の怪死を遂げていきます。最初は、巨漢の運転手(大前均)。そして、二宮家に出入りしていた蝋人形師の伊藤(太刀川寛)、さらには美術商の稲村(天草四郎)まで……。

やがて、清水を通じて和子に調査を依頼してきたのは、柳子の妹(二宮さよ子)であることがわかりました。そして浮かび上がってくる、あの「四谷怪談」との奇妙な類似点。稲村や伊藤が殺されたのは、本当に「お岩さん」の祟りなのでしょうか。そんなとき、二宮家へやってきた新たなお手伝い・竹中糸子(加山麗子)。彼女は、清水がかつて愛した女性・佐久間静子とそっくりでした――。

 

あらすじを細かく読んでくださっている方はそんなにいらっしゃらないだろうと思いつつ、今回は敢えて、時系列などを多少、崩した形で書いてみました。2時間枠の時代よりも尺が短い作品のため、短時間にいろいろなことが起こります。それだけテンポの良い作品なのですが、提示される情報量も多く、観る側はグイグイと引き込まれていくことでしょう。

“怪談”というだけあって、不気味な描写も全編にわたって登場します。実際の冒頭は、柳子が殺害される様子から幕を開けるのですが、さすが“昭和”のドラマだけあって、なかなかエグいです……。

墨野隴人には三橋達也さん、村田和子には鰐淵晴子さんというキャスティング。三橋さんは本作の翌年から『土曜ワイド劇場』では“十津川警部”となるので、ある意味、本作での墨野役はかなりレアだといえるでしょう。また鰐淵さんの和子は(陰惨な事件に直面しているにもかかわらず)ちょっとコミカルな一面を見せており、墨野とも息が合っていたので、このコンビでシリーズ化が実現していたら、けっこう面白くなっていたかもしれません。

本作のクライマックスは、幻想的な演出が印象に残ります。四谷ならぬ新宿を舞台に、錯乱していく真犯人(ネタバレになるため伏せますが、すでにあらすじの中に登場しているので、予想してください)の姿にご注目ください。また、「お岩さん」の声として出演しているのは、当時『魔女っ子チックル』(78年)のチックル、『未来少年コナン』(78年)のモンスリーなどを演じていた、売れっ子声優の吉田理保子さん。劇中、どのタイミングで、どんな形で「お岩さん」が声を発するのかは、観てのお楽しみということで……。

 

それでは、また次回へ。3月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第9回でご紹介した『消えた男』(監督:堀川弘通/出演:緒形拳、秋吉久美子、中条静夫ほか)、1980年の『傑作推理劇場』より『尊属殺人事件』(出演:辰巳柳太郎、浅茅陽子、浜村純、菅井きん、風見章子ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『大東京四谷怪談』

3月8日(月)13:30~15:00

3月18日(木)21:30~23:00

3月26日(金)18:30~20:00

 

『消えた男』

3月5日(金)14:00~15:00

3月20日(土)12:30~13:30

 

『尊属殺人事件』

3月6日(土)12:30~13:30

2021年2月22日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第24回『極刑』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1982年11月に放送された「火曜サスペンス劇場」作品『極刑』をご紹介します。この作品は、推理作家・ノンフィクション作家の福田洋先生が1981年に発表した『極刑 女流デザイナー誘拐殺人事件』を原作として、映画『華麗なる一族』(74年)、『不毛地帯』(76年)など骨太な作品を手がけてきた山田信夫さんが脚本化し、近年も水谷豊さん主演の『無用庵隠居奉行』シリーズなどを担当している吉川一義さんが監督を務めた作品です。

『極刑 女流デザイナー誘拐殺人事件』の題材となったのは、1965年に新潟県で発生した「新潟デザイナー誘拐殺人事件」でした。ドラマ版『極刑』も、かなり事実に基づいた描写がなされていますが、事件の舞台は新潟県新潟市から、群馬県高崎市へと変更されていました。

 

ある晩、群馬県高崎市に住む若い女性・高森由利子(美池真理子)が何者かによって誘拐されました。犯人が高森家に対して要求してきた身代金は、なんと2000万円。由利子の母である信子(左幸子)は、息子夫婦(住吉正博/早川絵美)とも相談し、警察に連絡を入れました。早速、大勢の捜査員が配備される中、信子たちは身代金を犯人に渡すべく、高崎駅へと向かいます。ところが犯人は、信子に対し、電車に乗って、指定の地点で窓から金を投げ落とすよう、指示を変更。信子はこれに従いますが、緊張と焦りで、うまく電車の窓を開けることができず、金を投げ落とすことはできませんでした。

落胆する信子たち。警察は「身代金を手に入れるまでは、犯人は人質を手にかけないはずだ」と気休めを言いますが、その後、間もなく、由利子は遺体となって発見されました。しかも、解剖の結果、由利子は身代金の受け渡し時刻より前に殺害されていたことが判明。あまりにも残酷な犯人の手口に、このニュースを知った人々は戦慄します。高森家と付き合いのあった、中古車販売業を営む寺尾俊平(垂水悟郎)とツネ(草笛光子)の夫婦も、例外ではありませんでした。いえ、むしろ近しい間柄だけに、ツネはこの事件を、他人事とは思えないほど、心を痛めていたのです。

しかし、ツネにとって全く想定外の事態が待ち受けていました。なんと、ツネの息子である浩二(金田賢一)が、この事件の容疑者として逮捕され、犯行を自供したのです。寺尾家に向けられる、世間からの非難。それでもツネは、息子が犯人だとは思えませんでした。浩二を信じ続けようとするツネでしたが、接見しても、なぜか浩二は口を閉ざします。そして担当検事(佐古雅誉)はツネに、浩二の前で彼の妻(立石凉子)の名前を出さないように釘を差しました。妻の名前を出すと、浩二が取り乱してしまうから、だそうです。ツネは腑に落ちませんでしたが、これに従うことにしました。

やがて浩二は、裁判で極刑である「死刑」を求刑されます。これには世間も納得。しかしツネの思いは変わりません。そんなとき、浩二が公判中に突如として容疑を否認。彼が初めて語った事件の全貌は、かなり具体的なものでした。もし浩二の証言が事実なら、彼は誘拐にこそ関わっていたものの、あくまで主犯グループに脅迫され、命じられるままに動いていたことになります。果たして、浩二が言うところの「リュウ」、そして「高橋」という人物は存在するのでしょうか。息子の死刑を阻止すべく、ツネは執念の調査を続けますが――。

 

というわけで、「浩二が真犯人なのか?」という点が、物語の主眼です。ただ、あらすじにも記した通り、浩二の態度には当初、特に不審な点が多かったのです。そんな彼が容疑を否認し始めたのは、やはり死刑が怖かったのでしょうか、それとも……!?

現実の事件をベースにしたドラマだけに、登場人物も多いのですが、山田信夫さんの脚本と吉川一義監督の演出によって、どのキャラクターからも「人間味」が感じられます。それゆえ、逆に浩二という人物の特殊性が浮き彫りになってくる構造で、仮に現実の事件の顛末を知っている人でも、ラストの展開はぎりぎりまで読めないのではないでしょうか。約40年前には、このような、志の高さを感じさせる2時間ドラマが少なくなかったのです。

丁寧に作られた本作の白眉は、すべての裁判が終わった後、被害者の母と容疑者の母が視線を交わすシーンでしょう。本コラムの前々回で採り上げた『女の中の風』における山岡久乃さんと加藤治子さんもそうでしたが、本作も、草笛光子さんと左幸子さんという2人の大女優の芝居が、作品にさらなる深みを与えています。表情の演技だけで、2人が苦しんできた時間の長さや、当事者同士にしか分からない複雑な心境などが、一気に伝わってくるのです。うっかりすると見逃してしまうような短いシーンですが、ぜひ、ご注目ください。

 

浩二役を繊細に演じてみせたのは、あの400勝投手・金田正一さんの息子としても知られる金田賢一さん。当時はまだ21歳でしたが、前年(1981年)に出演した映画『連合艦隊』では永島敏行さんや中井貴一さんとともに主要登場人物を好演するなど、注目を浴びていた存在でした。誘拐事件の被害者役の美池真理子さんは当時20歳。後の「池まり子」名義での活躍のほうをよく覚えているという方もいらっしゃることでしょう。この他、刑事役には天田俊明さん、山岡徹也さん。弁護士役に福岡正剛さん。裁判官役に幸田宗丸さん、野口元夫さんと、要所要所にベテランが配されています。

それでは、また次回へ。2月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第8回でご紹介した『魔少年』(監督:佐藤肇/出演:松尾嘉代、名古屋章ほか)、1980年の『傑作推理劇場』より『殺意』(原作:高木彬光/監督:野田幸男/出演:坂口良子、佐分利信ほか)、1979年の『土曜ワイド劇場』より『渓流釣り殺人事件~殺意の三面峡谷~』(監督:工藤栄一/出演:緒形拳、池上季実子、大坂志郎、夏樹陽子、西田健ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『極刑』

2月2日(火)20:00~22:00

2月12日(金)13:00~15:00

2月28日(日)19:00~21:00

 

『魔少年』

2月5日(金)13:00~14:00

2月15日(月)14:00~15:00

 

『殺意』

2月11日(木)14:00~15:00

2月17日(水)14:00~15:00

 

『渓流釣り殺人事件~殺意の三面峡谷~』

2月19日(金)13:00~15:00

2021年1月28日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第23回『女が見ていた』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1983年1月に放送された「火曜サスペンス劇場」作品『女が見ていた』をご紹介します。横溝正史先生の長編推理小説にも同タイトルの作品がありますが、こちらは脚本家・池田一朗先生による完全オリジナル。池田先生は1984年からは時代小説家・隆慶一郎としての執筆活動がメインとなるため、本作は脚本家専業としては晩年の仕事ということになります。監督は『Gメン’75』(75年)で、第1話をはじめとする傑作エピソードを多く手がけた鷹森立一さんが務めています。

 

1982年も、間もなく終わろうとしていました。都心の大手企業の庶務課に勤務している真山京子(泉ピン子)は、とても見栄っ張りな女性。それゆえ上司や同僚たちからも嫌われていたのですが、本人は「どこ吹く風」で、全く気にしていませんでした。

仕事納めの日、京子は冬に似つかわしくない格好で出社します。どうやら、彼女は年末年始をニューカレドニアで過ごすことを、周囲に自慢したかったようです。課長(長沢大)をはじめとする庶務課の面々は、そんな京子のことが鬱陶しくて仕方ないのですが、係長(河原崎長一郎)だけは、京子に対して優しく接していました。

さて――ここから京子の旅行が始まる……と思いきや、彼女の発言はすべてウソでした。倹約家でもある京子にとっては、海外で散財するなんて、あり得ないこと。同僚たちに見栄を張りたかっただけで、年末年始はマンションに引きこもって暮らすことを決めていたのです。約1週間、外へ一歩も出なくて済むよう、準備を済ませた京子。管理人(正司花江)にまでウソをついて、彼女の孤独な正月休みがスタートしました。

ところが不運なことに、京子の部屋のテレビが故障してしまいます。本格的な休みの初日にして、京子はヒマを持て余すことになりました。そんなとき、彼女は隣の住人・桑田友子宛てに届いた荷物を、代わりに受け取っていたことを思い出します。それは望遠鏡でした。京子は出来心で、望遠鏡を使って向かいのマンションの「覗き」を開始。すると、ある部屋で激しい「家庭内暴力」が行われているのを目撃したのです。

この「家庭内暴力」は、やがて殺人事件へと発展しました。「覗き」行為によって目撃者となった京子は迷った末、匿名で警察に電話します。「家庭内暴力の末、父親が息子を殺した」と。しかし、これは京子の誤認でした。警察が、当の野沢家へ確認に行くと、母親(高田敏江)と、“殺された”はずの息子(長谷川裕二)が出てきたのです。

警察をからかった、単なるイタズラかと思われました。しかし、警察が帰った後、それまで平静を装っていた母親と息子は、動揺を隠しきれなくなりました。なぜなら、被害者が異なっているだけで、「殺人事件」は実際に起こっていたからです。「父親が息子を殺した」のではなく、事実はその逆でした……!

 

目撃者である主人公・京子が、その「見栄」のため、名乗り出られないという状況。これが見間違えでなければ、おそらく事件はここで解決していたのですが、誤認だったことで、事態は予想外の方向へ展開していきます。「見られた」母子としては「目撃者」を見つけ出したいわけですが、「見られる」可能性は限られていますから、早い段階で、母子は方法が「覗き」であると確信。しかも、年末年始ゆえ、母子がターゲットを定めるには、それほど時間がかかりませんでした。

ある意味で「自業自得」とも言える“恐怖の日々”を送ることになってしまった主人公を当時35歳の泉ピン子さんが好演。1980年代に入り、主演作も増えていたピン子さんですが、本作の放送から3ヶ月後にスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『おしん』(83年)への出演により、押しも押されもしないトップ女優としての地位を完全に確立したと言えるでしょう。本作では、京子が事件を目撃するまでの描写に時間が割かれており、前半はピン子さんの「一人芝居」を観ているような感覚に陥りますが、むしろ、その構成が本作の独特な面白さを生んでいました。

息子を溺愛する母親役の高田敏江さんは、さまざまなテレビドラマで母親役を演じてきたベテラン。本作に近い時期で言えば、やはり『3年B組金八先生』第1シリーズにおける宮沢保(鶴見辰吾)の母親役が印象的です。2020年もNHK BSプレミアム『すぐ死ぬんだから』に出演されるなど、健在ぶりを示しています。登場が後半のため、ストーリー紹介部分では触れられませんでしたが、本作の刑事役は藤巻潤さんと木村元さん。藤巻さんは同時期、夜7時台のアクションドラマ『魔拳!カンフーチェン』(83年)にも出演されていました。

 

それでは、また次回へ。1月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第7回でご紹介した『観覧車は見ていた』(脚本:高久進/監督:鷹森立一/出演:市毛良枝、丹波哲郎ほか)、1981年の『火曜サスペンス劇場』より『ハムレットは行方不明』(原作:赤川次郎/監督:村川透/出演:宮崎美子、柴田恭兵ほか)、1984年の『土曜ワイド劇場』より『授業参観の女』(監督:野田幸男/出演:緒形拳、萬田久子、伊東四朗ほか)、1982年の『土曜ワイド劇場』より『透明な季節』(監督:藤田敏八/出演:芦川誠、石橋蓮司、中村嘉葎雄、中野良子、田村高廣、泉谷しげる、佐久田修ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

【1月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

1月、ついに『刑事くん』(第2シリーズ)も最終回(第55話)を迎えます――。

 

第55話「限りなき希望の道へ」(脚本:長坂秀佳/監督:竹本弘一)

 

三神刑事の上司・時村(名古屋章)宛てに、脅迫電話がかかってきました。その電話をとった三神は、時村を危険な目に遭わせるわけにいかないと、自ら時村になりすまして、電話の主が指定した場所へ向かいました。すると、そこで射殺事件が発生。殺された人物が三神(時村)と間違われて被害に遭ったことは明白でした。脅迫者はどうやら、本気で時村の命を狙っているようです。三神はこのまま、自分が時村の身代わりになって、脅迫者に立ち向かうことを決意しました。

宗方刑事(三浦友和)の捜査により、脅迫者の正体が判明したころ、三神は再び、呼び出しを受けて指定された場所へと向かっていました。経緯を知った時村は三神を死なせるまいと、必死で三神の行方を追います。しかし、その思いも及ばず、三神は凶弾に倒れたのでした。

「退職」で終わった第1シリーズに続き、第2シリーズは「殉職」で終わるのか? ぜひ、映像で結末をお確かめください。

1971年9月にスタートした第1シリーズは1年間にわたって続き、同じく桜木健一さんが主演の時代劇『熱血猿飛佐助』(2クール)を挟んで、第2シリーズも1年間の放送となりました。実に2年半(正確には2年8ヶ月)もの間、桜木さんはTBS月曜夜7時30分~8時の「ブラザー劇場」枠で、主演として活躍したわけです。「ブラザー劇場」から生まれたドラマ作品の中でも、屈指の人気を誇った『刑事くん』だけに、ここで終わってしまってはもったいないと、関係者の誰もが当時、思ったはず。と、なると第2シリーズの結末も想像がつきそうですが、ここでは敢えて、はっきり触れないでおくことにしましょう。

それにしても、『刑事くん』は今年で放映開始から50周年なんですね。そうすると、2022年には『熱血猿飛佐助』も50周年を迎えます。そろそろ観たいところなんですが、どうにかならないでしょうか……?

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『女が見ていた』

1月8日(金)11:00~13:00

1月12日(火)20:00~22:00

1月26日(火)22:00~24:00

1月29日(金)13:00~15:00

 

『観覧車は見ていた』

1月15日(金)13:00~15:00

1月26日(火)20:00~22:00

 

『ハムレットは行方不明』

1月1日(金)13:00~15:00

1月19日(火)20:00~22:00

 

『授業参観の女』

1月9日(土)17:00~18:50

1月22日(金)13:00~15:00

 

『透明な季節』

1月8日(金)13:00~15:00

1月16日(土)17:00~19:00

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

1月4日(月)18:00~18:30 最終回放送!

再放送:毎週金曜日7:00~8:00(2話ずつ放送/1月15日にて終了)

2020年12月25日 | カテゴリー: その他
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第22回『女の中の風』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1988年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『女の中の風』をご紹介します。原作は、『白の条件』や『てっぺん』などがテレビドラマ化したことでも知られる、万里村奈加先生が1985年に発表した『黒のミラージュ』(全3巻)。ヒロインをはじめとする主要な登場人物の名称や、ヒロインの境遇などは基本的に原作通りですが、それ以外の部分は大幅に脚色されています。

 

母・みね子(加藤治子)とともに苦労しながら母子家庭で育ってきた圭子(浅野ゆう子)にも、ついに幸せが訪れようとしていました。大企業・時任物産の御曹司で、若くして専務を務めている和彦(五代高之)との結婚が決まったのです。和彦の父で社長の義彦(永井秀明)も、半身不随で寝たきりの母・靜子(山岡久乃)も、息子の結婚を喜んでいました。

しかし、時を同じくして、一つの奇妙な事件が発生しました。本田政男(伊原剛志)という男が、駅のホームから転落、轢死したのです。転落の直前、ホームでは突然、空から降ってきた一万円札に誰もが群がり、本田の転落の状況を誰も目撃していませんでした。

事件は当初、他の人々と同様に一万円札を拾おうとして、本田も謝って転落したものと思われました。しかし、城北署の山崎刑事(横光克彦)らの捜査で、当時の風向きから考えると本田の転落には不審な点があることが判明。山崎刑事は、事故に見せかけた殺人の可能性も考慮に入れ、本格的な捜査を開始しました。本田の遺品の中で、山崎の目に留まったのは本田の高校時代の集合写真。○印が付けられていた女性は時任和彦と結婚したばかりの圭子でした。

これがきっかけとなり、山崎は圭子に注目します。長い苦節を経て、幸せを手に入れたはずの圭子は、どうやら本田に何らかの事情で、強請られていたようでした。そして、圭子は気づいていませんでしたが、夫・和彦もまた、素行調査によって、圭子と本田の秘密に辿り着いていました。和彦から離婚を切り出された圭子は――。

 

隠したい過去、守りたい幸せを持った女性が犯罪に走っていく……。2時間ドラマでは、ひとつの定番と言えるプロットですが、本作は中盤以降、物語がより深みを増していくという点で、多くの2時間ドラマとは一線を画す仕上がりになっています。

いくつかのキーワードが劇中に登場しますが、そのひとつは、タイトルにも入っている“風”です。圭子の思惑通り、本田の件は事故という結論で捜査が終了するのですが、納得のいかない山崎刑事は、犯罪者の心の中には風が吹くのだと、圭子に告げました。それは、完全犯罪など成立し得ないという、山崎の信念から出た言葉。自分は何度も、さまざまな風に耐えてきたと山崎に言い返す圭子でしたが、やがて圭子は山崎が言った通り、心の中に風が吹く瞬間を感じることになります。

そして、もうひとつ印象的なのは、“1%の可能性”というキーワード。圭子は、半身不随で歩くことが不可能な靜子に対して、靴をプレゼントします。この行動には、靜子の夫である義彦も動転しました。しかし、圭子は靜子の担当医にも確認したうえで、「1%の歩ける可能性に賭けてほしい」と、プレゼントに靴を選んだのです。これによって、圭子は靜子からの信頼を勝ち取りました。

ところが、やがて靜子は圭子の「正体」を知ってしまいます。圭子によって、息子と夫を失った靜子は、かつて圭子が自分に言った“1%の可能性”という言葉を使って、圭子を精神的に追いつめていくのでした。このあたり、山岡久乃さんという大女優を、設定上、全く動くことができない役どころに配置した狙いが、最大限に活かされています。本来なら、圭子にとって、いろいろな意味で「敵」ではないはずの靜子が、意外な形で「最大の敵」となってくる構成には、驚かされることでしょう。

また、圭子の母・みね子も、物語の中で大きな役割を果たします。こちらを演じているのは加藤治子さん。山岡久乃さんの靜子とは違った形で、自分の娘・圭子に影響を与えるのです。この2大女優の圧倒的な存在感は、すべてが「終わった」後のラストシーンでも示されるので、ぜひ、実際の映像でご確認ください。

主演を務めたのは浅野ゆう子さん。本作が放送された当時(1988年2月)は、フジテレビで『君の瞳をタイホする!』、TBSで『愛と復讐の海』と、2本の主演ドラマが放送中でした。つい先日、BSフジで放送された、80年代を振り返るスペシャル番組において、『君の瞳を~』で浅野さんと共演した陣内孝則さんが語っていたところでは、当時の浅野さんは『君の瞳を~』のような作品(いわゆる“トレンディドラマ”)より、『愛と復讐の海』のようなシリアスなドラマのほうを中心に活動したいという意向だったそうな。しかし、実際には、『君の瞳を~』に続き、88年7月からスタートしたフジテレビ『抱きしめたい!』で浅野温子さんとダブル主演した浅野ゆう子さんは、トレンディドラマの女王として、一時代を築いていくことになります。

このほか、大企業の御曹司・和彦を演じた五代高之さんは、本作の直後(88年4月)にスタートしたフジテレビ『教師びんびん物語』にレギュラー出演。紺野美沙子さん演じるヒロインをめぐり、主演の田原俊彦さんと三角関係になっていく役柄を好演しました。また、山崎刑事役の横光克彦さんは、本作の1年前まで、9年間にわたって『特捜最前線』に紅林刑事役でレギュラー出演。本作は、『特捜』の紅林編の1本として観ても成立しそうなくらい、山崎刑事の立ち位置が重要なものになっています。そして、冒頭であっさり死んでしまう本田役は、ブレイク前の伊原剛志さん。90年代に入ってから快進撃が始まりますが、80年代はまだ、あまり目立った活躍がありませんでした。そのキャリアの初期、ジャパンアクションクラブ(JAC、現:JAE)に所属されていたことも、いまでは知る人が少なくなっているかもしれません……。

 

それでは、また次回へ。12月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第6回でご紹介した『超高層ホテル殺人事件』(原作:森村誠一/主演:田村正和)、1984年の『火曜サスペンス劇場』より『行きずりの殺意』(原作:森村誠一/出演:浜木綿子、松尾嘉代ほか)、1982年の『火曜サスペンス劇場』より『たそがれに標的を撃て』(監督:鷹森立一/主演:菅原文太)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

【12月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

12月、新登場となるエピソードは第47話から第54話まで。第2シリーズは全55話なので、いよいよ大詰めとなってきました。

今回は第48話「爆発一秒前」をご紹介します。

 

第48話「爆発一秒前」(脚本:長坂秀佳/監督:富田義治)

ある喫茶店で、宗方刑事(三浦友和)は三神刑事(桜木健一)が到着するのを待っていました。そんなとき、その店で爆発が発生。宗方も巻き込まれて、重傷を負ってしまいます。被害者の中に刑事=宗方がいたことから、本庁から派遣されたベテラン刑事(高野真二)は犯人が宗方を狙ったものだと推理。しかし、三神はこの意見に、真っ向から対立するのでした。

宗方の容態を案じつつも、独自の捜査を続け、やがて有力な容疑者・山室に辿り着いた三神。彼の動機は、喫茶店のウエイトレス(菅沢恵美子)への逆恨みでした。三神は山室を城南署へ連行しますが、なぜか山室は、自分を「取調室へ連れて行け」と、取り調べを受ける「場所」に異様にこだわります。その必死さに違和感を抱いた三神は――。

冒頭も爆弾、クライマックスも爆弾(あ、ちょっとネタバレっぽいですが……)という、長坂秀佳さんらしい一編。『刑事くん』を経て、後の『特捜最前線』では、原子爆弾やバリコン爆弾、コンピュータ爆弾などを次々と登場させ、“バクダンのナガサカ”という異名を取りました。

ウエイトレス役の菅沢恵美子さんは、第32話「めぐり逢う日まで」において、ポスターで微笑む美女を演じていました。美女に恋した少年や、三神刑事の想像とは違い、この美女は性格的には……だったというオチがつくのですが。

今回、再出演を果たした菅沢さんですが、当時は東映演技研修所の所属で、仮面ライダーシリーズなど、東映のテレビ作品に数多く出演されていました。そして、本作の放送から約5ヶ月後に公開された映画『女必殺拳』の準主役・早川絵美役に抜擢され、少林寺拳法初段の腕前を活かして活躍。これを機に、芸名も役名と同じ“早川絵美”に改めました。

その後も『ザ・カゲスター』(76年)のベルスター=風村鈴子役などを演じた早川さんは1978年、『特捜最前線』にゲスト出演。ここで出逢った俳優の誠直也さんと結婚し、現在に至っています。

……さて、1月の新規エピソードは、残る第55話(最終回)のみ。第1シリーズの最終回は三神刑事の「辞職」で幕を閉じましたが、果たして第2シリーズの結末は?

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『女の中の風』

12月8日(火)11:00~13:00

12月22日(火)20:00~21:50

12月28日(月)11:00~13:00

 

『超高層ホテル殺人事件』

12月19日(土)21:00~23:00

 

『行きずりの殺意』

12月22日(火)13:00~15:00

 

『たそがれに標的を撃て』

12月29日(火)20:00~21:50

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

第57話(最終回)「人間たちの祭り」

12月3日(木)19:00~19:30放送!

2020年11月30日 | カテゴリー: その他