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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第31回『空白の実験室』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1986年の『火曜サスペンス劇場』作品『空白の実験室』をご紹介します。原作は、直木賞作家の渡辺淳一先生。渡辺先生といえば、どうしても(?)『失楽園』(97年)などの恋愛小説のイメージが強いですが、もともとは整形外科医としての顔も持っており、作家としてのキャリアの初期には、医療をテーマとした社会派小説も多く手がけておられました。本作も、そんな時代に生み出された作品のひとつで、単行本化は1972年。『火サス』版から遡ること4年、1982年にはTBSにて、古谷一行さんの主演で映像化されています。このときの脚本も『火サス』版と同じく、宮川一郎さんが担当。『火サス』版では、主人公・倉本が男性から女性に設定変更されており、そのほかに、ある重要な登場人物についても、やはり性別が変更されました。

外科講師・倉本冴子役は浜木綿子さん。今回の役柄が好評だったこともあるのでしょうか、浜さんは本作の約半年後から、同じ『火サス』で『監察医・室生亜季子』シリーズに主演することになります。同シリーズは1986年から2007年まで20年以上、全37作にわたって続き、『火サス』史上ナンバー1のロングランを記録しました。

 

東央医大ではいま、恐ろしい事件が起ころうとしていました。

約半年前、第一外科の高森教授が白血病で死亡したのに続き、今度は坂上助教授が同じ白血病で倒れたのです。10万人に3人の割合でしか罹らないと言われている病気に、なぜ同じ病院、同じ外科の医者が2人も続けて罹ったのでしょうか。

これを「偶然」と見る向きもありましたが、外科講師の倉本冴子は、さすがに不審を抱きました。ところが、同じく講師の小貫正之(日下武史)が、冴子の動きに気づき、これを牽制します。この件について究明することが、東央医大にとっては大きな不利益をもたらすのではないか、と言うのです。確かに、その意見には一理ありました。しかし、高森教授と坂上助教授の死で、次の教授の最有力候補と目されているのが、まさに小貫でした。冴子には考えたくもないことでしたが、もし小貫が「犯人」だとすれば、動機はじゅうぶん、ということになります……。

冴子は小貫の牽制を無視して、独自の調査を続けることにしました。これに、内科の井石伸一(橋爪功)が協力します。いま、わかっているのは、亡くなった坂上助教授の骨がボロボロになっていたことでした。さらに、高森教授の未亡人(阿部寿美子)からも遺骨の提供を受けた冴子は、本格的に骨を分析。すると、なんと高濃度のアイソトープが検出されました。さまざまな状況を総合すると、「犯行」にはストロンチウムが使われた可能性が高いことが判明。果たして誰が、何のために、そして、どうやって、このような恐ろしい犯罪を実行したのでしょうか。

冴子には、小貫への疑念が、どうしても消えませんでした。そこで冴子は直接、小貫と話してみることにします。ところが、小貫から返ってきたのは、意外な言葉でした……。

 

というわけで、本作は病院関係者が放射性物質を使って殺人事件を起こすという、なかなか“エグい”タイプのサスペンス。意外な犯人と、その衝撃的な動機については、ここでは、匂わせる程度にも書かないほうが良いでしょう。ぜひ、映像でご確認ください。

少しだけ補足しておくと、冒頭で述べた、一部の登場人物の「性別の変更」は、本作ではうまく機能していたと思います。おそらく、原作が発表された時点では、現実の医学界を考えると、このような設定はむずかしかったのでしょうが、10数年の時を経て、それが可能になったということでしょう。TBS版を『火サス』版にするにあたって、脚本の宮川さんが思いついたのか、それとも企画サイドからの提案だったのか……興味深いところです。

その他の登場人物としては、看護師たちがメインでした。看護師長にあたる沢藤ふさ子を演じているのは市川靖子さん。兄である二代目市川猿翁の元・妻が浜木綿子さんということで、俳優の香川照之さんにとって市川さんは叔母にあたります。

また、「実験室のボス」と言われるほどの経験と知識を持つ河北幸子役は、文学座所属の実力派・寺田路恵さん。さらに、田島知子役を三浦リカさん、三枝路子役を音無真喜子さんが、それぞれ演じました。三浦さんは後の『監察医・室生亜季子』シリーズにおいても長きにわたって、看護師役で浜木綿子さんと共演していくことになります。

 

それでは、また次回へ。9月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第14回で採り上げた『不安な階段』(監督:野田幸男/出演:浜木綿子、仙道敦子、乙羽信子ほか)、1980年の『土曜ワイド劇場』より『京舞妓殺人事件』(監督:牧口雄二/主演:長門裕之)、1983年の『火曜サスペンス劇場』より『青い幸福』(監督:馬場昭格/出演:新珠三千代、岡田裕介ほか)、1991年の『水曜グランドロマン』より『別れてのちの恋歌』(監督:井上昭/出演:大竹しのぶ、堤真一、田中邦衛、西田健ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『空白の実験室』

9月7日(火)13:00~15:00

9月14日(火)21:30~23:30

9月28日(火)11:00~13:00

 

『不安な階段』

9月15日(水)16:00~17:00

 

『京舞妓殺人事件』

9月14日(火)11:00~13:00

 

『青い幸福』

9月7日 (火)11:00~13:00

9月21日(火)13:00~15:00

 

『別れてのちの恋歌』

9月21日(火)11:00~13:00

2021年8月26日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第30回『間違った死に場所』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1989年の『現代神秘サスペンス』作品『間違った死に場所』をご紹介します。原作は、1995年に「恋」で直木賞を受賞することになる小池真理子先生。本作は短編集「あなたに捧げる犯罪」(89年2月発行)に収められたうちの1本で、同じ短編集に収められた「妻の女友達」は、日本推理作家協会賞を受賞しました。さらに言うと、この「妻の女友達」は、『間違った死に場所』が放送された翌週、テレビ東京の『月曜・女のサスペンス』枠で映像化されました。直木賞の受賞前とはいえ、小池先生の作品が当時、注目を集め始めていたことがわかります。

脚本は、1985年からスタートした『スケバン刑事』シリーズで注目を集めた橋本以蔵さん。1988年に放送され、いわゆるトレンディドラマの元祖的な存在と位置づけられている『君の瞳をタイホする!』も橋本さんがメインライターでしたが、この作品でヒロインを演じたのが、本作の主演でもある浅野ゆう子さんでした。

1988年から1989年にかけて、浅野さんはフジテレビの『抱きしめたい!』や『ハートに火をつけて!』に主演。89年の10月クールからはTBS『雨よりも優しく』への主演が決まっていました。そんな状況下ゆえ、単発ドラマ、しかも1時間ドラマへの出演というのはかなり減っていたため、本作は貴重な1本といえるかもしれません。また音楽を、90年代に入ってから大ブレイクする大島ミチルさんが手がけている点も要チェックでしょう。

 

テレビで人気のキャスター・恩田(大出俊)が、愛人である山崎満美子(浅野ゆう子)に絞殺されました。しかし実際には、仕事に疲れきっていた恩田のほうから、満美子に「殺してくれ」と頼んだのでした。満美子はまず、恩田の正妻(野際陽子)に電話で報告し、そのうえで「いまから自首します」と伝えました。ところが、正妻はなぜか、満美子に「自首するな」と厳命。娘(室井滋)と娘婿(佐野史郎)を連れて、3人で満美子のところへやって来たのです。なんと恩田は、自分が自宅以外で死んだ場合は、遺産を家族には相続させないという、ちょっと変わった遺言を書いていたのでした。そのため、正妻たちにしてみれば、恩田が愛人の家で殺されたとなると、遺産が受け取れないという問題が発生するのです。

そのため、本来なら責められるべき満美子は、恩田の家族から全く責められませんでした。その代わり、満美子は恩田の死体を恩田の自宅に運ぶのを手伝わされます。満美子は、複雑な思いでした。自分が愛した人の死を、家族は悲しむどころか、遺産のことしか考えていないのです。満美子自身は、自首の覚悟もしていたというのに……。

ともあれ、死体は自宅へ運ばれ、家族も一安心。しかし、何か忘れてないだろうか……と考えたところ、大問題が残っていました。恩田は殺される前、満美子の家でブランデーを飲んでいたのです。警察が死体を解剖した際、恩田の家にはないはずのブランデーが胃の中に残っていることがわかれば、恩田の「死んだ場所」が疑われてしまう!それゆえ、恩田の娘がブランデーを取りに行くことになりました。これで、恩田の家にブランデーが運ばれれば、ちょっと歪な「完全犯罪」の成立です。恩田の家族にとってみれば、恩田が死んだ場所が「自宅」ということになりさえすれば、それで良いのです。もはや、恩田の家族にとっても不要な存在となった満美子は、失意の中、再び自首の準備を始めるのでした……。

ところが、警察に電話をかけても、つながりません。それどころか、夜の街は、とても騒がしいことになっていました。公衆電話に並ぶ人々、つながらない電話、サイレンをけたたましく鳴らしながら行き交う救急車や消防車……。そう、「何か」が起こったのです。その「何か」とは、満美子の運命を劇的に変えてしまう、誰も想像し得なかった出来事でした。

 

「不倫相手に殺される人気キャスター」という“つかみ”から入った本作は、なぜか家族が、被害者が死んだ“場所”にこだわるという意外な展開を見せます。そのシチュエーション自体が異様なので、前半は一周回ってコミカルな印象さえ受けます。家族の態度に呆気にとられる浅野ゆう子さんに対し、家族側を演じているのが野際陽子さん、室井滋さん、佐野史郎さんということで、90年代に入ったら、この4人を1時間の単発ドラマで揃えるのは困難だったことでしょう。室井さんは1988年にスタートした『やっぱり猫が好き』のヒットで、人気が出た直後(考えてみれば、この作品での役名も偶然、本作と同じく“恩田”レイ子でした)。野際陽子さんはもちろん『キイハンター』(68年)などへの出演で、すでに有名でしたが、再ブレイクを果たしたのは、佐野史郎さんと母子役で共演した『ずっとあなたが好きだった』(92年)でした。佐野さんが一躍、時代の寵児となったのも同作ですから、本作での4人の共演は、テレビドラマ史全体として捉えても、面白い事実と言えるでしょう。その後の『長男の嫁』(94年)、『長男の嫁2~実家天国』(95年)では、浅野さん、野際さん、佐野さんの3人が出演していました。

 

さて、本作の凄みは、終盤の「どんでん返し」にあります。前半の展開も意外性に満ちていたのですが、恩田家の面々の態度も、ヒロイン・満美子を演じる浅野ゆう子さんの抑えた演技も、すべてが一種の“フリ(前フリ)”でした。

本作を最後までご覧になって、「何ソレ?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、決して「よくある」展開とは言えず、人間が生きているうちに一度出会う(直面するということではなく)かどうかという事態にメインの登場人物“全員”が巻き込まれるわけですから、これを「反則」と捉える、厳しい視聴者もおられるでしょう。

しかし……普通なら「なんとかして自分の罪を隠したい」と考えるところ、最初から最後まで「恩田への愛」を貫き、自分が逃げることなど一切、考えなかった満美子には、思いがけない未来が訪れました。逆に、最初から最後まで「遺産」のことしかアタマになかった恩田家の人々は……。

とにかく、本作については、騙されたと思って(?)一度、ご覧いただくことを特にオススメします。

 

それでは、また次回へ。8月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第13回で採り上げた『ステレオ殺人事件』(脚本:掛札昌裕/監督:小山幹夫/主演:秋吉久美子)、同じく第1回で採り上げた『現代鬼婆考・殺愛』(監督:竹本弘一/出演:千葉真一、志穂美悦子、野際陽子、柳永二郎ほか)、1973年の『サスペンスシリーズ』より『人妻恐怖・地獄道路』(監督:降旗康男/出演:野際陽子、中丸忠雄ほか)、1982年の『傑作推理劇場』より『妻よ安らかに眠れ』(出演:愛川欽也、畑中葉子ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

 

<放送日時>

『間違った死に場所』

8月3日(火)13:00~14:00

8月14日(土)19:00~19:50

8月31日(火)14:00~15:00

 

『ステレオ殺人事件』

8月10日(火)13:00~14:00

8月29日(日)14:00~15:00

 

『現代鬼婆考・殺愛』

8月3日 (火)14:00~15:00

8月24日(火)13:00~14:00

 

『人妻恐怖・地獄道路』

8月24日(火)14:00~15:00

8月31日(火)13:00~14:00

 

『妻よ安らかに眠れ』

8月10日(火)14:00~15:00

8月15日(日)12:00~13:00

2021年7月26日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                        第29回『六本木メランコリー』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1989年の『現代神秘サスペンス』作品『六本木メランコリー』をご紹介します。原作は、当コラムの第20回でご紹介した『花園の迷宮』、前回の『三階の魔女』と同じく、山崎洋子先生。『六本木メランコリー』は、1989年に発表された短編集『三階の魔女』に、表題作とともに収められていました。『現代神秘サスペンス』では第1話が『三階の魔女』でしたが、こちらの『六本木メランコリー』は、第4話として放送。第2話『青い髪の人魚』(製作:アズバーズ)と、第3話『人形と暮らす女』(製作:東宝)も同じく山崎先生の原作で、後者はやはり『三階の魔女』所収の作品でした。第1話の十朱幸代さんから小川知子さん、藤真利子さんと続いた主演女優は、今回は岩下志麻さん。監督は、当時まだスタートしたばかりだった『はぐれ刑事純情派』(88~05年)で第1シリーズからメインを務めていた吉川一義監督が担当しています。

 

倉田由紀(岩下志麻)は、広告制作会社で活躍するデザイナー。不動産業を営む夫(小坂一也)がいましたが、会社の同僚でディレクターの滝田和彦(原田芳雄)と不倫関係にありました。由紀の夫は、妻の不倫に気づいていましたが、離婚したいという妻の求めを頑なに拒否。それどころか、「滝田を交えて3人で会いたい」と由紀に告げるなど、滝田と真っ向から勝負するつもりで、由紀は悩んでいました。一方の滝田も、なかなか由紀が夫と離婚してくれないので、苛立ちをつのらせます。

そんなとき、会社に若いアシスタントとして、ショウコ(高橋ひとみ)が入ってきました。ショウコが滝田に憧れていることを知った由紀は、敢えて滝田とショウコを近づけようとします。いつしか、2人は男女の関係になっていました。しかしショウコは、滝田の心がずっと由紀のほうを向いていることに気づいてしまいます。悲しい恋愛を経験し、大人の女性へと成長したショウコは、自ら会社を去って行きました。

それから数年後、ショウコは由紀と再会。由紀から、夫や滝田との“その後”の話を聞きます。3人に、いったい何があったのでしょうか……。

 

実際の作品は、由紀とショウコの再会から始まります。この2人の関係性もあまり説明されないまま、物語は数年前の回想へと入っていくのですが、ある種“不親切”とも思える構成が、むしろ、本作に奥行きを与えていました。

岩下志麻さんと原田芳雄さん、といえば岩下さんの夫でもある篠田正浩監督の『はなれ瞽女(ごぜ)おりん』(77年)が思い出されます。盲目の旅芸人(=瞽女)と、下駄作りの職人の純愛物語。本作では、時代(放送当時は、まさにバブル真っ只中!)の最先端を行く男女を演じていますが、2人とも当時は40代後半にさしかかっており、大人の魅力を存分に感じさせてくれました。この2人と好対照を成すのが、2人よりは約20歳ほど若い、高橋ひとみさん。冒頭やラストで描かれる「現在」と、回想で描かれる「過去」のショウコは、滝田との恋愛を経て、かなりイメージが変わっており、高橋さんの演技力の高さが伝わってきます。ラスト、由紀とショウコが無言で見つめ合うシーンは、本作の白眉。2人の思いを言葉で説明せず、それぞれの表情に「託す」形にした演出と、2人の芝居は絶品でした。

物語のクライマックスは、ある一夜の出来事に集約されます。さまざまな思惑と、運命の悪戯が重なって起こったのは、仮に計画していたとしても、成功しなかったのではないかと思えるような、ひとつの「奇跡」といえる出来事でした。しかし、その「奇跡」は、誰かを幸せにしたのでしょうか。それとも……?

ちなみに、劇中で印象的な挿入歌となっているのは、TM NEWWORKが1987年にリリースしたアルバム「Self Control」に収録されている「Don’t Let Me Cry」。この曲は、アルバム制作当時、表題曲「Self Control」と、リードシングルの座を争っていたという逸話が残されています。

 

それでは、また次回へ。7月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第12回で採り上げた『死ぬより辛い』(監督:佐藤肇/出演:秋野暢子、松尾嘉代ほか)、1982年の『傑作推理劇場』より『ラスト・チャンス』(監督:小澤啓一/出演:原田芳雄、大谷直子ほか)、1987年の『現代恐怖サスペンス』より『向田邦子の鮒』(監督:吉川一義/出演:井上順、香山美子ほか)、1994年の『愛と疑惑のサスペンス』より『レベル7-空白の90日-』(原作:宮部みゆき/出演:浅野ゆう子、風間トオル、永作博美ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『六本木メランコリー』

7月2日 (金)19:00~20:00

7月16日(金)13:00~14:00

7月26日(月)20:00~21:00

 

『死ぬより辛い』

7月10日(土)15:00~16:00

 

『ラスト・チャンス』

7月2日(金)13:00~14:00

 

『向田邦子の鮒』

7月3日 (土)13:00~14:00

7月16日(金)14:00~15:00

 

『レベル7-空白の90日-』

7月9日 (金)13:30~15:00

7月30日(金)13:30~15:00

2021年6月28日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第28回『三階の魔女』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1989年の『現代神秘サスペンス』作品『三階の魔女』をご紹介します。原作は、当コラムの第20回でご紹介した『花園の迷宮』で江戸川乱歩賞を受賞して小説家デビューした山崎洋子先生。『三階の魔女』は1989年に発表された短編集『三階の魔女』の表題作で、すなわち、発表から間もなく映像化されたということになります。『現代神秘サスペンス』は、この当時、関西テレビが毎年夏(7月クール)に放送していた『現代怪奇サスペンス』(86年)、『現代恐怖サスペンス』(87年)などの流れを汲むシリーズで、『三階の魔女』は第1話を飾っています。ちなみに、一連のシリーズの放送枠は月曜夜10時~の1時間枠。『現代神秘~』と同時期の「月9」ドラマは『同・級・生』(原作:柴門ふみ/脚本:坂元裕二/出演:安田成美、緒形直人ほか)で、裏番組のTBSドラマ『ママハハ・ブギ』(出演:浅野温子、織田裕二ほか)と熾烈な視聴率競争を展開していました。

 

さて『三階の魔女』ですが、1987年の東映京都作品『夜汽車』と同じく、監督:山下耕作&主演:十朱幸代という形で製作されました。さらに遡れば、山下監督は1963年の『関の弥太ッペ』でも、当時20歳の十朱さんをヒロイン役に起用しています。

主人公・川村真琴(十朱幸代)は、働き盛りのフリーカメラマン。若い助手(柳沢慎吾)にテキパキと指示を出しながら、エネルギッシュに仕事をこなす日々でした。

しかし、そんな真琴の人生を一変させる出来事が起こってしまいます。彼女が暮らすマンションの隣の部屋に若い男性が押し入り、主婦の美根子(島村佳江)と赤ん坊を人質にして立てこもったのです。そして、その犯人は、「自分は真琴の恋人だ」と主張していました。真琴自身には全く身に覚えがありませんでしたが、そういえば、このところマンションの様子を窺っている若い男性がいることは確認していました。とはいえ、その男性が犯人なら、真琴は勝手に好意を持たれ、このような大胆な事件を起こされてしまったことになります。真琴の部屋へ強引に上がり込んできた安藤刑事(小林稔侍)は、事件を早い段階で解決しようと、真琴に協力を要請。予想もしていなかった状況に、戸惑う真琴でしたが、犯人はさらに、異様な要求を真琴に突きつけました。なんと、自分と一緒に心中してほしいというのです。

真琴からしてみれば、迷惑この上ない話でした。しかし、このままでは、人質になっている美根子たちが危険です。情報を知ったマスコミも一斉に、この事件に飛びつきました。真琴は完全に“悪役”扱いとなり、プライバシーも猛烈な勢いで暴かれていきます。そして、事態を知って帰宅した美根子の夫・大里照夫(北村総一朗)も、真琴を激しく責めました。やがて真琴は、ある決意を固めます……。

 

1時間ドラマなので、あらすじ紹介はこのへんで。中盤以降、驚愕の「どんでん返し」が待っています。あらすじ紹介では敢えて省略した、冒頭の「ちょっとしたやりとり」を観ていれば、もしかしたら早めに、本作の「オチ」に気がつくかもしれませんが……。

それにしても、本作のコワさは、マスコミが遠慮なく、真琴の個人情報などを晒していくくだりです。もちろん、ドラマゆえの誇張はありますし、現在では、さすがにここまで個人情報が無神経に扱われる可能性は低いでしょう。とはいえ、先日の東京都立川市で発生した事件では、犯人の名前が(未成年ゆえ)伏せられた一方で、被害者の名前だけが何の遠慮もなく発表されたりと、人権に対する考え方という点で、ひじょうにバランスを欠いた報道が(相変わらず!)なされています。『三階の魔女』はミステリとしての面白さだけでなく、ある種の社会風刺という視点も備えている点で、令和の現在における視聴にも、じゅうぶん耐えうるドラマなのではないでしょうか。ともすれば、「暗さ」が作品全体を支配しそうな筋立てではありますが、序盤における真琴と助手の描写がポップで、救いになっていました。出番は少なめながらも、柳沢慎吾さんというキャスティングは成功だったと言えましょう。また、原作での真琴の職業はホステスで、物語の展開上はそのほうが確かに「しっくりくる」のですが、映像化にあたって「カメラマン」と設定したことが、クライマックスで大きな意味を持ちます。この改変は「なるほど」と唸る工夫なので、ぜひ注目してください。

 

それでは、また次回へ。6月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第11回で採り上げた『暗い穴の底で』(脚本:長坂秀佳/監督:天野利彦/出演:近藤正臣、山口果林ほか)、1981年の『傑作推理劇場』より『異人館の遺言書』(出演:フランキー堺、春川ますみ、岡田真澄ほか)、1992年の『不思議サスペンス』より『姿のない尋ね人』(監督:崔洋一/出演:古尾谷雅人、黒田福美、内藤剛志ほか)、1986年の『山村美紗サスペンス』より『死人が夜ピアノを弾く』(脚本・監督:中島貞夫/出演:松方弘樹、松尾嘉代、西田健ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『三階の魔女』

6月7日(月)14:00~15:00

6月14日(月)11:00~12:00

6月25日(金)19:00~19:50

 

『暗い穴の底で』

6月22日(火)10:00~11:00

 

『異人館の遺言書』

6月11日(金)14:00~15:00

 

『姿のない尋ね人』

6月15日(火)16:00~17:00

 

『死人が夜ピアノを弾く』

6月11日(金)12:30~14:00

2021年6月6日 | カテゴリー: その他
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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                         第27回『花柳幻舟獄中記Ⅱ』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、前回ご紹介した『花柳幻舟獄中記』の続編にあたる、1985年の『月曜ワイド劇場』作品『花柳幻舟獄中記Ⅱ』をご紹介します。前作の放送は1984年5月でしたが、それから約1年を経て、今回はなんと4月1日という、実質的な「期首特番」扱いとなりました。1984年4月の第1週&第2週には、テレビ朝日開局25周年記念番組として『花も嵐も踏み越えて 女優田中絹代の生涯』前・後編(高橋かおり、秋吉久美子、乙羽信子がリレー形式で田中絹代を演じたドラマで、2週とも3時間枠が用意された)が放送されていたことを考えれば、いかに本作が局側の期待を受けていたか、容易に想像できるでしょう。構成の中島信昭さん、脚本の掛札昌裕さんは前作から続投し、監督のみ、野田幸男さんから森崎東さんに交代しました。森崎監督は松竹出身。後にフリーとなり、1980年代には『時代屋の女房』(83年/主演:渡瀬恒彦、夏目雅子)、『塀の中の懲りない面々』(87年/主演:藤竜也、柳葉敏郎)などを手がけています。2013年の『ペコロスの母に会いに行く』が最後の監督作となりましたが、この作品はキネマ旬報ベスト・テンで日本映画1位に選ばれるなど、高い評価を得ました。2020年7月、惜しくも逝去されています。

 

さて、物語ですが、前作をご覧になった方ならばお分かりのように、『獄中記』にあたる部分は、すでに映像化されていました。そのため、パートⅡとなる今回の副題は『女子刑務所 花の同窓会』。冒頭こそ、前作のラストをなぞる形で(ただし、映像は流用ではなく新撮されています)「仮出獄」までの数日間がダイジェスト的に描かれますが、そこからラストまでは「出所後」のお話となりました。

傷害罪で服役していた舞踊家・花柳幻舟こと川井洋子(花柳幻舟)は、刑期満了前に栃原刑務所(実際は「栃木刑務所」)を仮出獄することになりました。さまざまな思い出が脳裏をよぎりつつも、逞しい幻舟は、この“貴重な経験”を今後の活動に存分に活かしていくことしか考えていませんでした。早速、「出所記念公演」で派手な復帰を果たした幻舟は、そこで自分よりも先に出所していた中野佐代子(萩尾みどり)と再会します。幻舟、佐代子、そして菅野セツ子(奈美悦子)が集まったのは、やはり栃原刑務所での服役経験を持つ女将(園佳也子)が経営する焼き鳥屋「栃原」。しかし、懲りずにまた新たな悪事に手を染めようとしていた者もいて……。

 

全編の大半が「刑務所内」の話だった前作は、やむなく罪を犯した者たちにとって、外の世界よりも、むしろ閉じられた世界である“獄中”での生活のほうが幸せなのかもしれない、という物悲しさがテーマとなっていました。そこから続く物語である本作は、出所後がメインということで、導入部は希望を感じさせるものの、むしろ前作よりも「観ていて辛い」展開が待っています。これは意外というより、前作から一貫したテーマを訴えている本作では「順当」な流れだといえるでしょう。後半、幻舟さんは「前科者」に対する人々の態度の中から、“建前”に隠された“本音”を次々と感じ取っていきます。森崎監督は、こうした人々の様子を敢えて、ちょっと戯画的に演出することにより、おそらく幻舟さんが現実でも直面したであろう「違和感」を際立たせました。ここまで「前科者」サイドに感情移入させてしまう作りは確信的で、さすがに現在のテレビ界では本作のような企画は成立しにくいでしょう(シンプルに考えても、わずか数年前の事件の当事者が自ら「本人」役で主演し、しかも犯罪シーンまで再現するというドラマなど、昨今のように何から何までクレームの対象となるご時世では、そもそもスポンサーがつきづらいはずです)。ただ、それゆえに、本作の存在は極めて貴重なものとなっています。

 

少々「惜しいな」と思ってしまうのは、せっかくの続編にもかかわらず、前作とのつながりが薄い点です。とはいえ、これは今回のように4月、5月と連続して放送されるから感じることであり、本放送当時は、前作の内容を細かく覚えている視聴者など少なかったでしょうから、製作サイドも、そこまでこだわっていなかったのかもしれません。前作から、役柄も含めて続投しているのは幻舟さんの父親役・和崎俊哉さんや、ある理由から出所を極度に拒む赤城ヤエ役の白川和子さん程度。前作では目立っていた刑務所の保安課長役・上月左知子さんは展開上、本作ではほとんど出番がなく、また前作と同じく女囚役ながら、なぜか役名は異なる立石凉子さんのようなパターンもありました。

一方で、期首特番扱いということもあってか、助演陣は全体としてはより豪華になっています。弁当屋で真面目に働き始めた佐代子を見初める、食品会社の専務役には河原崎長一郎さん。「事件」前まで幻舟さんの考え方を支持していた文芸評論家役に仲谷昇さん。そして幻舟さんの元・恋人役には、当時『特捜最前線』にレギュラー出演中だった誠直也さんが扮しています。これに加え、幻舟さんと交流のあった意外な「文化人」たちもカメオ出演。実名で登場し、しっかり「台詞」もありますので、ご注目ください。

 

それでは、また次回へ。5月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、1991年の『水曜グランドロマン』より『別れてのちの恋歌』(監督:井上昭/出演:大竹しのぶ、堤真一、田中邦衛、西田健ほか)、1982年の『火曜サスペンス劇場』より『死の断崖』(監督:工藤栄一/出演:松田優作、夏木マリ、竹田かほりほか)、1993年の『サスペンス・明日の13章』より『変身 もう一人の私』(監督:黒沢直輔/出演:伊藤かずえ、蟹江敬三ほか)、1988年の『京都サスペンス』より『マルゴォの杯』(監督:山下耕作/出演:岩下志麻、奈良岡朋子、石橋蓮司ほか)が放送されます。これらの作品群も、ぜひご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『花柳幻舟獄中記Ⅱ』

5月7日(金)13:00~15:00

5月22日(土)22:00~24:00

5月28日(金)17:00~19:00

 

『別れてのちの恋歌』

5月7日(金)17:00~19:00

5月21日(金)13:00~15:00

 

『死の断崖』

5月14日(金)13:00~15:00

5月21日(金)17:00~19:00

 

『変身 もう一人の私』

5月7日(金)19:00~20:00

5月14日(金)18:00~19:00

 

『マルゴォの杯』

5月14日(金)17:00~18:00

5月21日(金)19:00~20:00

2021年4月22日 | カテゴリー: その他
その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY                第26回『花柳幻舟獄中記』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1984年5月に放送された『月曜ワイド劇場』作品『花柳幻舟獄中記』をご紹介します。

『月曜ワイド劇場』は、1982年の秋から4年間にわたって、テレビ朝日・月曜夜9時~11時(最後の1年間のみ、夜8時~10時に移動)に編成されていた2時間ドラマ枠です。もともと、この枠では1981年の秋から1年間、『ゴールデンワイド劇場』という形で、主に邦画が放送されていましたが、1982年の春以降は新作の2時間ドラマが放送されることも多くなっていき、そのまま『月曜ワイド劇場』へと移行したのです。『ゴールデンワイド劇場』時代の2時間ドラマ作品の中には、山田太一さんが自らの原作を脚本化した名作『終りに見た街』などがありました。

さて『月曜ワイド劇場』ですが、この枠で放送される2時間ドラマは当初より「女のドラマ」などと銘打たれることが多く、打ち出し方として、同じテレビ朝日の2時間ドラマ枠として先行・定着していた『土曜ワイド劇場』との差別化を図った形跡が見られます。さらに細かく傾向を追っていくと、1983年の放送作品には『女囚犯歴簿』『悲しみの交通刑務所』『女子少年院』『女の哀しみの声がきこえる 女囚258号鉄格子の中で出産!』といったタイトルも。『花柳幻舟獄中記』のドラマ化は、こういった作品群が安定した支持を得たことから、実現したものだと考えられるでしょう。

このドラマの原作となったのは、舞踊家・花柳幻舟さんの自伝『夕焼けは哀しみ色』。ドラマ内でも生々しく“再現”されていますが、日本舞踊「花柳流」の名取となった幻舟さんは1960年代の後半から「家元制度」打倒を目指した活動を続け、1980年2月、当時の家元だった花柳壽輔(三代目)を斬りつける事件を起こし、傷害罪で服役することになりました。ドラマでは、同年10月末から翌年4月末までの、約半年間にわたる刑務所生活が、幻舟さんの視点から描かれていきます。ドラマ化にあたっては、東映の劇場作品でも共作歴のある掛札昌裕さんと中島信昭さんが組み、中島さんが構成、掛札さんが脚本としてクレジット。監督は、『不良番長』シリーズで知られる野田幸男さんが務めました。

 

舞踊家・花柳幻舟こと川井洋子(花柳幻舟)は、傷害罪で懲役8ヶ月という判決を受け、告訴することなく、形に服すことになりました。栃原刑務所(実際は「栃木刑務所」)で、幻舟の新たな生活が始まります。刑務所で出会ったのは、強烈な個性を持った女囚たち。幻舟=洋子は「有名人」ゆえ、当初は特に、彼女たちから目の敵にされ、精神的・肉体的に辛い日々を過ごすのでした……。

 

あらすじとしては、ひじょうにシンプルな本作。物語の大半は刑務所内が舞台で、幻舟さんと女囚たちの確執、交流が描かれました。女囚や、刑務所の関係者を演じる女優のみなさんは芸達者揃いで、演技合戦を観ているだけで、全く退屈しません。ネタバレになるかもしれませんが、後半の見どころは、女囚たちが幻舟さんの書いた台本で演じる芝居です。設定ではもちろん、女囚たちは演技の素人ですが、その女囚を演じているのが演技派の女優さんたち(ややこしい……)なので、この「劇中劇」は当然ながら、見応えのあるものになっているのです。

印象的な登場人物を挙げるとキリがありませんが、中でもやはり、中山綾子(殺人罪で無期懲役)役の中原早苗さん、佐々木京子(横領罪)役の宮下順子さん、赤城ヤエ役の白川和子さんといったあたりは出色。この他、出番は少なめですが、花村菊(詐欺罪)役の三條美紀さんもさすがの存在感を示しています。また、作品の性格上、男優陣は少ないのですが、幻舟さんの父親として「現在」と「過去(回想シーン)」に登場した和崎俊哉さんをはじめとして、京子の夫役・島田順司さん、ヤエの情夫役・中田博久さん(当時は『超電子バイオマン』にも悪役でレギュラー出演中でした)といった方々が、まさに「適役」を演じておられますので、どうぞご注目ください。

 

それでは、また次回へ。4月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第10回でご紹介した『百円硬貨』(監督:野田幸男/出演:いしだあゆみ、川地民夫ほか)、1981年の『傑作推理劇場』より『雪の螢』(監督:浦山桐郎/出演:大空眞弓、二宮さよ子、鹿沼えりほか)、1993年の『サスペンス・明日の13章』より『小さな王国』(監督:吉川一義/出演:岩下志麻、草刈正雄、石立鉄男ほか)、1988年の『乱歩賞作家サスペンス』より『罠の中の七面鳥』(監督:崔洋一/出演:浅野ゆう子、古尾谷雅人、相楽晴子、角野卓造ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひ、ご堪能ください。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『花柳幻舟獄中記』

4月2日(金)13:00~15:00

4月9日(金)20:00~21:50

4月30日(金)13:00~15:00

 

『百円硬貨』

4月9日(金)14:00~15:00

4月25日(日)13:00~14:00

 

『小さな王国』

4月1日(木)22:00~23:00

4月9日(金)13:00~14:00

 

『雪の螢』

4月1日(木)23:00~23:50

4月23日(金)13:00~14:00

 

『罠の中の七面鳥』

4月2日(金)16:00~17:00

4月23日(金)14:00~15:00

2021年3月22日 | カテゴリー: その他
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