今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1981年の『木曜ゴールデンドラマ』より『花冷え』をご紹介します。放送日は1981年2月5日でした。今回、東映チャンネルでの放送は12月で、大晦日にも放送がありますが、劇中では、序盤に大晦日や元日の描写がありますので、12月にご視聴いただくには、ちょうど良い作品かもしれません。
本作は瀬戸内晴美さんの「夏の終り」「黄金の鋲」をベースに映像化された作品です。瀬戸内晴美さんは、いまでは瀬戸内寂聴さんと書いたほうがわかりやすいでしょう。いまからちょうど100年前、1922年(大正11年)に生まれ、1年前の2021年に99歳で亡くなられた尼僧にして、小説家。大正から昭和、平成、令和を駆け抜けた、その波乱に富んだ生涯については、よく知られているところでしょう。約半世紀前の1973年に出家された寂聴さんですが、「夏の終り」が書かれたのは、いまから60年前の1962年。少しややこしいのですが、1963年に出版された短編小説集「夏の終り」には、標題作のほか、その連作という形で「花冷え」というタイトルの作品も収録されていました。本作のタイトルは、ここから採られたものです。そして、ドラマの内容は「夏の終り」がベースになっていますが、ラストの主人公のモノローグ部分には「黄金の鋲」(1967年に発表)の表現が登場します。
「夏の終り」は、1963年に早くも映画化されていました。このときのタイトルは『みれん』で、これも「花冷え」と同様、「夏の終り」の連作として書かれた作品のタイトルでした。池内淳子さんが主演で、その他、仲代達矢さんや仲谷昇さん、西村晃さんらが出演されました。そして、そのちょうど50年後には、満島ひかりさんの主演でふたたび『夏の終り』が映画化されました。主人公の設定は小説家ではなく染色家となっているものの、知子・涼太・慎吾といったキャラクター名は変更されていません。
さて、前置きが長くなりましたが、「花冷え」のストーリーについて、ご紹介していきましょう。相沢知子(岩下志麻)は、中堅の女流作家として多忙な日々を送っていました。私生活では、久慈慎吾(中尾彬)という、売れない小説家と暮らし始めてから5年が過ぎていました。ただし久慈とは不倫の関係でした。久慈は、知子の家と、妻子が暮らす家を行き来する日々。大晦日から元日にかけてなど、節目のタイミングでは、妻子のところにいました。しかし、知子もそんな生活に、特にストレスを感じていませんでした。
そんなとき、知子は思いがけない再会を果たします。8年前、自分が夫と乳飲み子を捨てて結ばれた木内涼太(萩原健一)が突然、知子の前に姿を現したのです。知子と涼太の関係は、知子が家庭を捨ててまで選んだものにもかかわらず、すぐに終わっていました。その後、涼太は結婚したものの、いまは別れて独身に戻っているようです。久慈と幸せな日常を送っている知子にとっては、涼太との再会は「ただ懐かしい」ものでした。
ところが涼太にとっては、そうではありませんでした。涼太は知子が久慈と暮らしている家を調べたうえで、久慈が妻子のもとへ帰っている元日に、ひとりぼっちで正月を迎えている知子を訪ねてきたのです。このあたりから、知子の心にも、変化が生じ始めます。後日、久慈の妻からの電話をたまたま受けてしまった知子は、あらためて、久慈には家庭がある、という事実を認識する形になりました。頭の中では理解していても、直接、久慈の妻の声を聞いたことが、知子に大きな影響を与えたようです。久慈と別れることを決意した知子。一方の涼太も、知子を激しく求めていました。しかし、知子にとっては、これは新しい修羅の道の始まりだったのです……。
岩下志麻さん、萩原健一さんという2大スターが共演した、大人のラブストーリー。ただしテーマは「不倫」なので、知子や涼太のヒリヒリした思いが、画面を通じて伝わってきます。特に後半はほぼ、この2人だけのやりとりが続く構成。お互いを愛しているのに、どうしてもうまく気持ちが通い合わない2人の、本気のぶつかり合いは凄まじい迫力です。ちなみに、当時の岩下志麻さんは大河ドラマ『草燃える』(79年)の主演を務めた後で、映画『極道の妻たち』シリーズ(86~98年)に出会う前、という状況。萩原健一さんは30歳を迎えたばかりで、黒澤明監督の映画『影武者』に続いて、本作に取り組んだという形でした。2人とも、キャリアの絶頂期へ向かう時期に、本作と出会ったと言えるでしょう。また萩原さんと寂聴さんの交流が長く続いたことも、よく知られるところです。
初回放送から40年あまりを経て、ふたたび世に問われる、寂聴さんの世界。最高の演技者を得て、どのように描かれたのか、この機会にご確認ください。
<12月の『Gメン’75』>
12月が初回放送となるエピソードは、第99話から第108話です。サブタイトル通り、「安楽死」の問題を扱った第99話「安楽死」をはじめ、重厚なテーマに挑んだ回が続出。そんな中、第103話では響圭子刑事(藤田美保子)がGメンを去り、第104話では津坂刑事(岡本富士太)が壮絶な殉職を遂げます。さらに第105話からは立花警部補(若林豪)、中屋刑事(伊吹剛)、速水涼子刑事(森マリア)がGメンに加入。約半数のレギュラーが一気に入れ替わった『Gメン’75』は、新時代へと突入していきます。第105、106話では香港、マカオでのロケも行われていますので、ぜひ、ご期待ください。
そして『ピンスポ!』では、10月の前編に続いて、岡本富士太さんインタビューの後編が放送されます。もちろん、殉職編などについてもコメントをいただいておりますので、こちらもお見逃しなく!
文/伊東叶多(Light Army)
【違いのわかる傑作サスペンス劇場/2022年12月】
<放送日時>
『花冷え』
12月8日(木)13:00~14:50
12月31日(土)21:30~23:30
『非行少年』(原作:津本陽/脚本:高久進/主演:石立鉄男)
12月9日(金)13:00~15:00
『沈黙は罠』(原作:夏樹静子/主演:香山美子)
12月13日(火)13:00~15:00
『現代神秘サスペンス 六本木メランコリー』(出演:岩下志麻、原田芳雄ほか)
12月16日(金)19:00~20:00
12月30日(金)19:00~20:00