日別アーカイブ: 2020年9月23日

その他

チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第20回『花園の迷宮』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1988年の「火曜サスペンス劇場」作品より、『花園の迷宮』をご紹介します。この作品の原作は、山崎洋子先生。1986年の第32回「江戸川乱歩賞」受賞作にして、山崎先生の代表作です。ちなみに、1985年(第31回)の受賞者のひとりが、東野圭吾先生でした。

昭和初期の遊郭を舞台にした本作は大きな注目を浴び、映像化の企画が進められていきます。まずは1988年1月、映画版が公開されました。伊藤俊也監督がメガホンをとり、撮影を木村大作さんが担当。東映京都撮影所には舞台となる遊郭の豪華セットが建てられました(美術は「映像京都」代表を長きにわたって務めながら、数多くの映画で美術監督として手腕をふるった西岡善信さん)。主演は島田陽子さん(多恵役)。原作の主人公にあたる冬実(ふみ)役は工藤夕貴さんが演じ、冬実の幼なじみ・美津役は、ここでは冬実の姉という設定に改変され、野村真美さんが演じました。

ここまでの説明からも想像がつくかもしれませんが、映画版は原作から時代設定なども変更されるなど、比較的オリジナル要素が強い作品となっていました。

それに対し、映画公開の約2ヶ月後に放送されたテレビドラマ版のほうは、細部こそ異なるものの、大筋は原作に忠実だったといえるでしょう。あくまで『火サス』枠ではありますが、「日本テレビ開局35周年企画」という冠が付けられるなど、日本テレビ&東映が力を入れた作品だったことは間違いありません。監督は映画『戦国自衛隊』(79年)や、テレビドラマ『俺たちの旅』(75年)などで知られる斎藤光正さん。主演はNHK朝の連続テレビ小説『はね駒』(86年)で国民的人気女優となり、映画『恋する女たち』(86年)や『トットチャンネル』(87年)、舞台『レ・ミゼラブル』(87年)などでも好評を博していた斉藤由貴さんが務めました。斉藤さんといえば、東映ファンにとってはなんといっても『スケバン刑事』(85年)が印象深いところですが、東京と京都で撮影所こそ違っていたものの、斉藤さんにとって本作は『スケバン刑事』以来の東映作品だったことになります。

 

昭和7年(1932年)、横浜の遊郭「福寿」に、若狭の小さな漁村から、2人の少女が売られてきました。すでに18歳になっていた美津(小野沢智子)のほうは早速、女主人・多恵(岡田茉莉子)の意向もあって「顔見世」に出されることになりましたが、まだ17歳だったふみ(斉藤由貴)はしばらく、下働きを務めることになりました。

そのうちに、ふみは病気療養中の女郎・山吹(竹井みどり)の看護を命じられました。しかし、山吹の病は快復することなく、死亡してしまいます。その病状は、同じく「福寿」で5年前に亡くなった女郎・桔梗(一柳みる)のものと似ていました。

桔梗や山吹の死には不可解な点が多いことから、実は他殺なのではないかという噂も、まことしやかに流れていました。同じような疑惑は、ふみも抱いていましたが、そんなふみに対し、遣り手のお民(初井言榮)は明らかに、厳しい視線を向けるのでした。

そんな中、椿という名で売れっ子の女郎になりつつあった美津の客が死亡。美津もまた、死体となって発見されました。怒りとともに、いよいよ深まっていく、ふみの疑惑。果たして、美津や女郎たちを殺害したのは誰なのでしょうか? そして、彼女たちを殺さなければいけなかった犯人の動機は? 遊郭「福寿」では、いったい何が起こっているのでしょうか……?

 

遊郭で発生した、連続殺人事件の謎。時代背景を巧みに絡めたストーリーが展開され、やがて事件の全貌が明かされるシーンまで、高い緊迫感が保たれています。

幼なじみの美津までが被害者となったことで、ただでさえ負けん気の強いふみは、決して怯むことなく事件の真相へと迫っていきます。そんなふみにプレッシャーをかけるのが遣り手のお民。劇中ではたびたび、ふみ=斉藤さんとお民=初井さんが激突するシーンがあるのですが、初井さんはさすがの貫禄。対する斉藤さんも、一歩も引かない熱演を見せています。この2人に加えて本作では抑えた演技が中心の岡田茉莉子さんも存在感を示しており、遊郭という“花園”に集った女優たちの“競演”が、本作の最大の見どころといえるでしょう。

ビッグネームが並ぶ中、前半で重要な役割を担う美津=椿役として濡れ場にも挑戦しているのが、撮影当時24歳だった小野沢智子さん。本作の後には、映画『昭和鉄風伝 日本海』(91年)で浜田雅功さんが演じた主人公の高校時代の同級生役を演じたほか、多くの作品で活躍されています。また、どうしても女優陣が目立つ本作ですが、ピンポイントで左とん平さん、深水三章さん、梅津栄さん、井上昭文さんといった名バイプレーヤーの方々が個性を発揮しているのも見逃せません。

特別企画として、放送当時は2時間半の枠で放送された本作。ゆえに本編尺も、たっぷり2時間弱となっています。“豪華絢爛”という形容が相応しい娯楽大作、この機会にぜひ、ご覧になってください。

それでは、また次回へ。10月の「違いのわかる傑作サスペンス劇場」では本作のほか、当コラムの第4回でご紹介した『女からの眺め』(脚本:早坂暁/監督:吉川一義/出演:岡田茉莉子、樹木希林、三ツ矢歌子、加藤治子ほか)、1981年の『土曜ワイド劇場』より『死刑執行五分前』(原作:比佐芳武/出演:若山富三郎、中村玉緒、高岡健二、内田朝雄ほか)が放送されます。これらの作品群もぜひご堪能ください。

 

【10月の『刑事くん』(第2シリーズ)】

10月、新登場となるエピソードは第29話から第36話まで。その中から、今回は市川森一さんが脚本を担当した第32話「めぐり逢う日まで」と、第34話「青春への伝言」をご紹介します。

 

第32話「めぐり逢う日まで」(監督:富田義治)

ある化粧品店に泥棒が入りましたが、どうやら、盗まれたのは「ラブミー化粧品」のポスターだけでした。軽微な事件ということで、この件は三神刑事(桜木健一)がひとりで担当することに。しかし、軽微であったがゆえに、被害に遭った店さえ、まともに捜査に協力してくれませんでした。

そんな中、三神の執念で、ひとりの容疑者が浮かび上がりました。それは、ポスターに写ったモデル・春川マナ(菅沢恵美子)のファンで、高校1年生の加藤順平(今村良樹)でした。学校でも家庭でも、特に心配されることのない「健全な青年」の順平が、なぜこんな犯罪に及んだのか。順平の気持ちを想像していくうちに、三神刑事には、この事件の「動機」が見えてきたのです……。

この回の特徴は、ついぞ三神刑事が、この事件をどう処理したのか語られないことです。三神はどうやら、犯人の「動機」にしか興味がなかったようで、自分が推理した「動機」に間違いがなかったことが確認できると、そこで捜査をやめてしまいました。それどころか、「犯人」である高校生の少年と心を通わせ合うのです。「自分も同じだよ」と言わんばかりに……。

このあたり、市川森一さんが描く『刑事くん』の特徴といえるでしょう。現在のテレビ界では、「刑事ドラマ」という体裁をとっている以上は、このような脚本は映像化されにくい気がします。しかし、間違いなく言えるのは、『刑事くん』というシリーズの最大の魅力は今回のような、「刑事である前に、まず人間」という主人公・三神の姿を描いている点にある、ということです。

メインライターである長坂秀佳さんが描いたのが、“刑事”としての三神の成長だとするならば、市川さんは終始、“人間”としての三神に目を向け続けました。それも、描いたのは「成長」ではなく、変わらない「純粋さ」だったといえるでしょう。今回などは、言葉を選ばずにいえば、三神が独断で事件を「握りつぶした」とも捉えられるエピソードです。軽微な事件だったとはいえ、これでは本来、「刑事失格」でしょう。

ラスト、三神は別の事件の捜査に参加し、意外な形で、ポスター盗難事件にも終止符を打ちます。より正確にいえば、事件そのものではなく、彼自身の「気持ち」にピリオドを打ったのです。このくだりがあって、初めて「刑事ドラマ」として、しかもギリギリのラインで成立するというのが市川脚本の見事さでしょう。

なお、一部のマニアには知られているエピソードですが、ラスト近く、三神と順平がひとしきり話し合った後に無言になるシーンで、市川さんは「二人の青春の間を青い風が吹きぬける」という、おそらくシナリオ学校などでは「悪い例」として注意されそうな、絶妙なト書きを記しました。これを、市川さんと相性が良かった富田義治監督がどのように映像化したのか、ぜひ実際にご覧になって、確かめてみてください。

 

第34話「青春への伝言」(監督:加島 昭)

三神が知り合い、やがてお互いに思いを寄せ合うようになった高校生の少女・千景(小林千恵)。三神は自分が刑事であることを、そして千景は自分がスケバングループの中心メンバーで、暴力団の手先として犯罪に加担していることを隠していました。

しかし、やがて城南署が捜査中の事件の関係者として千景の名が浮かび、一方、暴力団の側も、千景と三神が会っていることを怪しみ始めます。もしかしたら、千景は自分たちの情報を、三神に提供しているのではないか?

千景は三神が刑事だと知り、激しいショックを受けました。しかも、組織からは裏切り者だと疑われることになり、千景のみならず、仲間たちまでが命の危険にさらされました。そんなとき、千景たちを必死の思いで救ったのは、他ならぬ三神でした。三神の心からの言葉を聞いて、泣き崩れるスケバングループ。そして千景は……。

「ピンスポ!」のインタビュー企画でも、主演の桜木健一さんが忘れられない回だと語っていた、『刑事くん』としては異色の恋愛編。このエピソードの放送は1973年12月でしたが、同年3月にリリースされ、夏を過ぎるころから本格的にヒットし始めたペドロ&カプリシャスの名曲「ジョニィへの伝言」がフィーチャーされており、サブタイトルも、同曲を意識したものになっていました。

先に紹介した第32話で、高校生と「理想の恋人」について話し合った三神。そんな彼がこの第34話で女子高生と交際している……というあたり、脚本の市川さんの中では32話と34話がつながっていたのかもしれません。もっとも、現職の刑事と女子高生(しかもスケバン)の熱愛、なんていうネタはやはり、現在のテレビ界では扱いづらいに違いありませんが……。

ラスト、文字通り「すれ違って」いく2人の青春を、加島昭監督が情感たっぷりに演出しています。ゲストヒロイン・千景を演じたのは小林千恵さん。本作の当時は中学3年生で、アイドル歌手としても活躍されていました。小学生時代には子役として『キャプテンウルトラ』(67年)や『ジャイアントロボ』(67年)などに出演。1971~72年にかけては「瞳ちえ」名義で活躍し、とりわけ『キイハンター』第210話「いんちきキイハンター探偵局」でのカオル役が印象的でした。こちらのエピソードも東映チャンネルで12月放送予定なのでどうぞお見逃しなく!

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

<放送日時>

『花園の迷宮』

10月15日(木)13:00~15:00

10月24日(土)15:00~17:00

10月27日(火)22:00~24:00

 

『女からの眺め』

10月20日(火)21:30~23:20

 

『死刑執行五分前』

10月31日(土)22:00~24:00

 

『刑事くん』(第2シリーズ)

毎週月曜日18:00~19:00(2話ずつ放送)

再放送:毎週金曜日7:00~8:00

 

『刑事くん』(第1シリーズ)

毎週木曜日19:00~20:00(2話ずつ放送)

2020年9月23日 | カテゴリー: その他