日別アーカイブ: 2021年12月24日

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チューもく!! 東映テレビドラマLEGACY 第35回『第三の女』

今月の「東映テレビドラマLEGACY」は、1982年の『土曜ワイド劇場』作品『第三の女』をご紹介します。原作は、夏樹静子先生が1978年に発表された同名の小説。「第三の女」といえば、アガサ・クリスティの「名探偵ポアロ」シリーズの最末期に発表された作品のタイトルとして、ご存知の方も多いかもしれません。ちなみに、アガサ版「第三の女」はこれまで映像化の機会に恵まれていませんが、夏樹先生の『第三の女』は1982年版の後、1989年、2011年も映像化されています(詳しくは後述)。

スペインへのロケを敢行した本作は、1982年の7月から9月にかけて月イチペースで送り出されていた『土曜ワイド劇場』5周年記念企画の大トリでした。第1弾(7月放送)は連城三紀彦先生が原作の『戻り川心中』(主演:田村正和)。第2弾(8月放送)は、東映チャンネルでも過去に放送させていただいた、藤田敏八監督による『透明な季節』(主演:中野良子)。そして『第三の女』は、まさに「第3弾」でした。当時、『土曜ワイド劇場』を代表するヒットシリーズだったのが、天知茂さんが明智小五郎に扮する「江戸川乱歩の美女シリーズ」。1977年から、天知さんが急逝された1985年まで続きましたが、特に、井上梅次監督が一貫して担当していた1982年までが黄金期と言えるでしょう。その1982年は、まず1月2日に『天国と地獄の美女』を3時間スペシャルとして放送。そして長年、同時間帯番組として視聴率争いを続けてきた『Gメン’75』が最終回スペシャルを放送した4月3日にも、『土曜ワイド』側は『化粧台の美女』をぶつけました。このように、『土曜ワイド』の顔だった天知さんを主演に迎え、しかも「名探偵」ではなく「犯人」を演じさせたあたりに『第三の女』の「本気度」が感じられます。おいおい、いきなり「犯人」と書くなんてネタバレじゃないか……と思った方、ご心配なく。『第三の女』の推理ポイントは、別のところにありますので。

 

大湖浩平(天知茂)は、スペインのマドリッドにある大学で、助教授を務めていました。彼の専門は食品衛生学。マドリッドでは、小児癌に冒される子どもが増えていました。原因の一つとして有力だったのが、有害物質の入ったお菓子。ところが、大湖の上司である吉見教授(山形勲)は、お菓子メーカーと癒着しており、問題のお菓子の調査データを改竄したのです。そのため、お菓子の流通は続き、被害者も増え続けました。大湖が再調査を申し出ると、吉見はそれを拒否したばかりか、大湖に対し、別の大学への左遷人事をちらつかせます。いまや大湖にとって、吉見は「殺したいほど憎い人物」となっていました。

大湖は、自分の心を落ち着かせるため、休日を利用して、友人が別荘として利用している古城を訪ねました。ところがタイミング悪く、古城では仮装パーティが行われていたのです。大湖は仕方なく、自分も仮面を着けて、そのパーティに参加することにしました。

そのパーティの渦中で、大湖は運命的な出会いを果たします。なんと、自分と同じように「ある人物を殺したい」と考えている日本人女性がいたのです。彼女の名は、サメジマ・フミコ。お互いに素顔を明かさず、仮面のまま、2人は愛し合いました。

大湖にとって、その女性は忘れられない存在となりました。「もう一度、会いたい」と大湖は思いを募らせますが、2人をつなぐのは、ある「約束」だけです。それは「交換殺人」の約束。大湖がフミコの殺したい人を、そしてフミコが大湖の殺したい人を、それぞれ殺すという「約束」……これを最初に実行したのはフミコのほうでした。大湖のアリバイが成立する時間に、吉見教授を毒殺したフミコ。しかし、これで大湖のほうも「約束」を果たすしかなくなりました。大湖のターゲットは、美しき女性・永原翠(樋口可南子)。彼女を殺すため、日本へ帰国した大湖は箱根へ赴き、翠と接触します。そして、わずかなチャンスを逃すことなく、翠を絞殺。フミコとの再会を果たしたい大湖は、この事実をフミコに伝えたかったのですが、肝心のフミコの正体が、彼にはわかりません。翠のために夫を失った女性・久米悠子(あべ静江)や、翠にとっては異母妹にあたる永原茜(樋口可南子・二役)がフミコではないかと疑う大湖でしたが、この2人とは別に、「第三の女」がフミコである可能性も残されており……。

そのころ、マドリッド警察のマンリーケ警部(ポール・ナチィ)と私立探偵のマリア(ラ・ポーチャ)は、大湖が吉見に殺意を抱いていたことをつかんでいました。吉見の事件についてはアリバイがあった大湖ですが、来日したマンリーケ警部たちは、日本で起こった永原翠の事件との関連性に着目します。この2つの事件が「交換殺人」だったとしたら……!?

 

というわけで、物語の焦点は、仮面の女=サメジマ・フミコが誰なのか、に集約されていきます。表現を変えれば、「第三の女」は存在するのかどうか。「江戸川乱歩の美女シリーズ」においては明智小五郎として、見事な名推理と変装で奇怪な事件を解決していた天知さんですが、本作の「大湖浩平」役では、動機こそ「スペインの子どもたちを救いたい」というものながら、一つの出会いによって殺人犯へと転落していく脆い中年男性の姿を好演されました。そして、翠と茜の二役を演じた樋口可南子さん(当時23歳!)の魅力には、ただただ圧倒されます。1980年にはドラマ『港町純情シネマ』や『ピーマン白書』、1981年には映画『北斎漫画』に出演した樋口さんは、1982年になるとドラマ『女捜査官』に主演するなど、若手女優のトップへと躍り出ました。その後のご活躍は、あらためて触れるまでもないでしょう。

また、本作ではスペインと日本の警察が合同捜査を行う展開となりました。日本側の刑事には加藤武さん、石田信之さん、久富惟晴さんが扮しているほか、署長役で深江章喜さんも出演。このあたりのキャスティングの充実ぶりも、「5周年記念企画」ならではでしょう。特筆すべきはスペイン側の刑事をポール・ナチィ(ポール・ナッシー)が演じていること。ポールは1970年代のスペイン映画で狼男やドラキュラなどを演じて人気を博した俳優で、自ら脚本や監督を務めることも多かった、知る人ぞ知るスターなのです。そんな彼の出演作の中には、「アマチフィルム」がスペインの製作会社と共同で製作し、脚本・監督をポールが手がけ、狼男役をポール、戦国時代の医者を天知茂さんが演じた、『狼男とサムライ』という映画がありました。おそらく『第三の女』での天知さんとポールの出会いが、製作に至るひとつのきっかけとなっていると思われる怪作『狼男とサムライ』ですが、合作にありがちな(?)トラブルのため、日本にフィルムが到着して商品化(VHS)に漕ぎ着けたのは天知さんの急逝後のこと。ここからは推測になりますが、この作品の製作にまつわる心労が天知さんの寿命を縮めた可能性も否定できず……54歳という若すぎる死は、日本の映画・テレビドラマ界において、巨大なる損失でした。

 

さて、冒頭で触れた、その後の『第三の女』映像化ですが、主なキャスティングの推移は下記のようになります。

 

大湖浩平/天知 茂(1982)⇒永島敏行(1989)⇒村上弘明(2011)

永原 茜/樋口可南子(1982)⇒南野陽子(1989)⇒菊川 玲(2011)

永原 翠/樋口可南子(1982)⇒南條玲子(1989)⇒小沢真珠(2011)

久米悠子/あべ静江(1982)⇒大場久美子(1989)⇒高橋かおり(2011)

吉見教授/山形 勲(1982)⇒鈴木瑞穂(1989)⇒津川雅彦(2011)

 

こう見ると、やはり1982年版で翠と茜の異母姉妹を二役で表現していることは(結果的に、とも言えますが)大きな特色となっています。一方、1989年版の特徴は、主人公が永原茜となっていること。2011年版は時代を反映してか、浩平とフミコはネットを通じて知り合うという設定になっていました。

そうそう、「サメジマ・フミコ」のキャスティングについては上記で一切、触れていませんが、もちろん、ネタバレを避けるためなので、悪しからず……。

それでは、また来月の当コラムでお会いしましょう。

 

文/伊東叶多(Light Army)

 

【違いのわかる傑作サスペンス劇場/2022年1月】

<放送日時>

『第三の女』

1月10日(月)20:00~22:00

1月21日(金)13:00~14:50

 

『超高層ホテル殺人事件』(主演:田村正和)

1月2日(日)15:00~17:00

1月21日(金)11:00~13:00

 

『駅路』(主演:古手川祐子)

1月7日(金)11:00~13:00

1月20日(木)13:00~14:50

 

『震える髪』(主演:秋吉久美子)

1月14日(金)11:00~13:00

1月25日(火)11:00~13:00

 

『行きずりの殺意』(主演:浜木綿子)

1月11日(火)13:00~15:00

1月28日(金)11:00~13:00

2021年12月24日 | カテゴリー: その他